未経験から飲食業の先駆者へ~杉村明紀の哲学と情熱偶然の出会いが人生を変えた ー 飲食業界への転身「学生時代、飲食店でアルバイトをしたことすらなかった」そう語るのは、現在「がブリチキン。」をはじめとする飲食ブランドを展開する株式会社ブルームダイニングサービスの代表取締役社長・杉村明紀氏だ。1979年愛知県生まれの杉村氏は、大学卒業後に物流会社に就職し、当初は飲食業とは無縁の世界で働いていた。しかし26歳の時、人生の大きな転機が訪れる。親族が経営する飲食企業を継承することになったのだ。調理の経験もなく、飲食業界の知識もほとんどない状態での大きな決断だった。「まったくの未経験分野への挑戦でした。最初は調理もできず大変な思いをしましたが、会社を存続させるために懸命に働き続けました」飲食業界に飛び込んだ杉村氏は、調理、接客、店長業務からエリアマネージャー、購買担当、開発担当などあらゆる職種を経験。現場の最前線で奮闘しながら、チェーン展開していた会社を軌道に乗せていった。ラーメンチェーンでの経験と成長30歳を過ぎた頃、杉村氏はさらなる挑戦の場を求めるようになる。そんな時、有名ラーメンチェーン店「一風堂」を展開する株式会社力の源ホールディングスの人事部長と知り合い、入社を決意。専務取締役として国内事業を統括する立場となり、上場やM&A、海外ジョイントベンチャーなど、飲食業の経営において重要な経験を積んでいった。「新規事業を中心としたさまざまな業務に携わる中で、個性豊かな仲間と一緒に働き、新しいフィールドで結果を出す喜びを分かち合えたことがとても嬉しかった」と杉村氏は振り返る。この時期に得た経験は、後に自身が経営者となった時の大きな財産となった。特に労務環境の改善に取り組み、社員の家族からお礼の手紙をもらった経験は、企業として社会に幸せを届ける実感を得る機会となった。ブルームダイニングサービスでの新たな挑戦2020年、コロナ禍真っただ中。杉村氏は新たな挑戦の場としてブルームダイニングサービスに専務取締役として入社する。前職と比べて事業規模は小さく、組織体制も十分に整っていなかったが、社員の前向きな姿勢や職場の良い雰囲気、そして「関わるすべての人、すべての街に幸せの花を咲かせる」という企業理念に強く共感し、入社を決めたという。「新たな挑戦がしたかった。できれば投資ファンド会社と一緒に仕事がしてみたいと考えていたところ、ブルームダイニングサービスの加藤弘康社長(現会長)とその大株主であるファンドとの接点を持つことができました。加藤さんは良い意味で"人たらし"なタイプ。とにかく人柄がすばらしくて、考え方にも強く共感し、会社の将来に大きな可能性を感じたのが入社の理由です」入社後すぐに杉村氏は、3カ月かけて社内の課題を洗い出し、3カ年の中期経営計画を構築。従来の外食に加え、中食(テイクアウト・デリバリー)、内食(食品外販)の3つの市場に向けたビジネス展開を立案した。2021年7月、杉村氏は創業者の加藤弘康氏からバトンを受け継ぎ、代表取締役社長に就任。コロナ禍という厳しい環境下での経営舵取りを任されることになった。コロナ禍での大胆な業態転換 ー 危機を機会に変える発想「がブリチキン。」は、2011年に名古屋で1号店を出店以来、からあげ、骨付鳥、漬け込みハイボールを名物とする居酒屋・バル業態として人気を博してきた。しかし、コロナ禍でアルコール提供店が大きな打撃を受ける中、杉村氏は大胆な業態転換を決断する。2021年5月、「ららぽーと名古屋みなとアクルス」に非アルコール業態の「からあげ、定食、丼 がブリチキン。」の1号店をオープン。日本で一番美味しいからあげを決める「からあげグランプリ®」で10年連続金賞を受賞している強みを活かし、食事需要の獲得を図った。杉村氏は、従来の居酒屋・バル業態についても、リブランディングを図り、専用のテイクアウト窓口を設けた店舗へと順次リニューアル。先行してオープンした三重県桑名市のFC店舗では、売上の3割近くをテイクアウトで稼ぎ出すなど、新たなビジネスモデルが好調な滑り出しを見せている。さらに、「からあげ専門 がブリチキン。」のテイクアウト専門店や、フードコート業態、キッチンカー、ゴーストレストランなど、様々なシーンに対応したマルチブランド展開を進めている。「コロナ禍でも戦い抜ける第2、第3の事業軸をつくっていく。ブルームダイニングサービスに入ってよかったと、働く従業員の皆さんがそう思える会社を目指していきます」社員の幸せを第一に考える経営改革杉村社長が特に力を入れているのが、社内改革だ。「社員が私たちの会社に入って良かったと思える改革を進めることを大切にしています」と語る杉村氏は、2023年に「社内独立支援制度」を立ち上げた。この制度は、勤続5年以上などの条件を満たした社員に対して、既存店の譲渡だけでなく新規出店権も与えるという画期的なもの。社員のキャリア形成の選択肢を増やすとともに、「がブリチキン。」ブランドの拡大にもつながる施策だ。「私は本気でパートナーとして一緒に頑張ってほしいですし、創業者の加藤もきっと『がブリチキン。』を広げていく仲間が欲しいと思うので、既存店を譲渡するだけじゃなくて新規出店権も渡しています。信頼関係のもと、みんなが楽しみながら商売して成功につなげて、『がブリチキン。』のパートナーとしてブランド向上にも貢献してくれる、そんな形を目指しています」また、それぞれのライフスタイルや家庭環境に合わせて、柔軟な働き方ができる勤務形態の整備も進めている。夜だけでなく昼でも働くことができる非アルコール業態を伸ばすことで、社員の多様な働き方を実現させようとしているのだ。「社員の皆さんに幸せを感じてもらうためには、業界最高水準の給与を確保し、多様な働き方を選択できる会社であるべきだと思います」飲食業界の未来を拓く ー 労働力不足への挑戦杉村社長は、飲食業界全体が抱える課題にも積極的に取り組んでいる。特に深刻なのが労働力不足だ。「飲食業界に進みたいと考える人材が不足しているという課題に対しては、どうすれば業界自体の魅力を高められるかを常に意識しています」そのための取り組みの一つが、外国人労働者の積極的な採用だ。杉村氏はベトナムで開催された合同企業説明会に自ら赴き、ハノイ大学の学生に会社を紹介した。「国外で生活している外国人は、日本への憧れや尊敬を抱き、生活水準を高めたいという願いを持つ人が多いと感じています。人生を左右する大きな決断をして来日する人材は、会社にとっても心強い存在です」国籍や性別を問わないリベラルな組織づくりを目指す杉村氏。今後は国内事業の拡大だけでなく、東南アジアへの進出も視野に入れている。「ビックな会社ではなく、ナイスな会社に」創業者の加藤氏がよく語っていた「ビックな会社ではなく、ナイスな会社になろう」という言葉を、杉村氏も大切にしている。「決して会社を大きくすることだけに目を奪われるのではなく、これからも地域に貢献しながら、『がブリチキン。』のファンをさらに増やしていきたい」杉村氏は経営者として特に「3つの要素」を大切にしている。それは「財務諸表が読めるか」「先見性があるか」「ビジョンを描けるか」だ。また、創業者ではない「プロ経営者」として、企業理念を理解し体現することにも注力している。座右の銘は「頑張るでなく結果を出す。結果が出なければその努力は0に等しい」と「過去と他人は変わらない。自身と未来は変えられる」。結果にこだわり、未来を切り拓く強い意志を持つリーダーの言葉だ。飲食業の魅力 ー 杉村氏が見出した「幸せの花」元々は飲食業に関心がなかった杉村氏だが、今では業界の魅力にすっかり取り憑かれている。「飲食業の本質は、美味しいものを手間ひまかけてお客様に提供すること。そのクリエイティブな面を大切にしながらも、効率化すべきところはしっかりと取り組む。そのメリハリが重要です」杉村氏が語る飲食業の魅力は、何と言っても「人と人とのつながり」にある。料理を通じてお客様に喜びを届け、店舗という場を通じて地域に貢献する。そして何より、共に働く仲間との絆が人生を豊かにしてくれる。「個性豊かな仲間と一緒に仕事をすることができ、新しいフィールドで結果を出す喜びを分かち合える。これが飲食業の素晴らしさです」未経験から飲食業に飛び込み、困難に直面しながらも常に前向きにチャレンジし続けてきた杉村氏。彼の歩みは、飲食業界を目指す人々にとって、大きな励みとなるだろう。「関わるすべての人、すべての街に幸せの花を咲かせる」この企業理念を体現するように、杉村明紀氏は今日も新たな挑戦に向かって歩みを進めている。未経験からでも、熱意と行動力、そして周囲の人々への感謝の気持ちがあれば、飲食業界で大きな花を咲かせることができる—それが杉村氏の生き様が教えてくれる最大のメッセージだ。