「人間性で勝負できる業界」株式会社クロスビット 野田氏淳が語る、飲食業界の魅力と可能性「飲食業界は仕組み化されていない。だからこそ、人間性で勝負できる業界なんです」株式会社クロスビットのフィールドセールスチームマネージャー、野田淳はそう語る。34歳の彼は、お菓子メーカーからぐるなび、フランチャイズのコンサルティング会社を経て、現在はクラウドシフト管理システム「らくしふ」を提供するクロスビットで活躍している。彼の経歴は一見すると複雑に見えるが、そこには一本の軸が通っている。食と人をつなぐ仕事への情熱だ。「小さい頃から食べることに興味がありました」と話す野田氏。ラグビーに没頭していた学生時代、彼が初めて飲食業界に触れたのは大学3年生のときだった。「最寄り駅にある個人店、『アサヒビールが日本で一番うまく飲める』と評判のお店があって。店員さんがかっこよくて、その場で『働かせてください』とお願いしたんです」それが彼の飲食業界との出会いだった。当時、野田氏はラグビー部での活動を終えたばかり。塾講師のアルバイトはしていたが、飲食店で働くのは初めての経験だった。「お客様と仲良くなったり、いまだにそのお店の前を通ると常連さんに挨拶したり。そういう縁というのがすごく素敵でいいなと思いました」だが、彼を魅了したのはそれだけではなかった。「一つ一つのこだわりというか、皆さん誇りを持ってやられている部分。バーテンダーと店長とコックがめちゃくちゃ仲が悪いんですよ、そのお店は」と笑いながら話す。「皆それぞれの正義を持っている。全員正解なんだけど、本気でやっているからこそぶつかる。そういうのを初めて目の前で見て、面白いなと思って携わらせてもらった」彼の言葉からは、飲食業界が持つ人間ドラマの面白さが伝わってくる。商社マンの父と、国際的な視点野田氏のキャリア選択には、もう一つの大きな要素がある。それは「海外」という視点だ。彼は商社マンだった父の海外駐在中にイギリスで生まれた。0歳から4歳までをイギリスで過ごし、その後日本に戻って育ったが、10歳から12歳までの間に再びイギリスへ。幼い頃から国際的な環境に触れてきた経験が、彼のキャリア観に大きな影響を与えている。「父の影響で、海外事業に携わりたいという思いは常にありました」大学卒業後、彼が最初に選んだのは食品メーカーだった。「名のある会社に行きたい」という思いと、「海外事業部に携わりたい」という願いを叶えるため、UHA味覚糖に入社。関西のルート営業として実績を上げていく。しかし、海外事業部への異動の道が閉ざされていると知り、3年目で退社を決意した。「海外営業に行きたいと思っていたので、その可能性がないと知った時、自分の道を変えようと思いました」ぐるなびでの挑戦と香港駐在次に選んだのはぐるなび。「経営者の方と話せる仕事をしたい」という思いと、海外進出の機会があるという期待から、飲食業界専門の情報サービス企業に転職した。しかし、最初の配属は浅草エリアの加盟店営業。「焼け野原みたいな状態で、飛び込みでも太刀打ちできない」状況に、一時は苦悩したという。「もう何もできないんだなという気持ちが強くて。話し方も全然はまっていなくて」そんな挫折も経験しながら、彼は年下の先輩に飛び込み営業の仕方を教わり、徐々に数字を上げていく。その実績が認められ、2年間の営業経験の後、彼に思いがけない転機が訪れる。「いきなり声をかけられまして、香港駐在を命じられたんです」海外で働きたいという夢が叶う瞬間だった。彼はその場で即決。香港に渡り、現地でぐるなびのような新しいビジネスの模索や、行政からの輸出案件、プロモーションを担当した。「日本からの輸出品支援などに携わりました」と野田氏は振り返る。なぜ彼が香港駐在の任を受けることになったのか。その背景には、いくつかの要因があった。入社面接の時から「海外拠点での勤務に興味がある」と伝えていた野田氏。その希望は人事部に記録され、海外事業部門で人材を探していた時に彼の名前が挙がったという。しかし、それだけではない。前職の食品メーカーでの経験、学生時代のイギリス生活、そして何より飲食店営業での目覚ましい実績。飛び込み営業で苦戦する地域で実績を上げた彼の粘り強さと営業力が、海外という未知の市場で必要とされていたのだ。「私の名前を指名してくれたと聞いて、本当にありがたかった」と野田氏は当時を振り返る。「入社時から持っていた夢を覚えていてくれて、チャンスを与えてくれた会社には感謝しています」また、当時ぐるなびは海外展開を強化する時期で、特に中華圏での事業拡大を模索していた。上海、台湾、シンガポールに続き、香港への本格進出を図るタイミングだった。野田氏の柔軟性と適応力、そして何より飲食業界に対する深い理解と情熱が、この重要なミッションに適していると判断されたのだろう。2年間の香港駐在は、彼のキャリアに厚みを加えた。しかし、香港の政情不安から帰国を余儀なくされ、その後は新規事業部門を経験。計6年間勤めたぐるなびを卒業し、フランチャイズ本部支援のコンサルティング会社へと移っていく。飲食業界とテクノロジーの交差点フランチャイズのコンサルティングでは、多くの経営者と深い関係を築いた。「本当に経営者の方と実際に飲みに行って、腹の内を話してもらったり。会社の看板ではなく、野田氏としてつながりができたのはこの時期」と語る彼の表情には、充実感が満ちている。毎週のように飲食店のオーナーや経営陣と席を共にし、時に深夜まで語り合った。ある焼肉チェーンの創業者からは「50店舗展開までの苦労話」を、カフェを3店舗運営する若手経営者からは「スタッフの採用と定着の悩み」を聞いた。彼らが語るのは表向きの成功話ではなく、資金繰りの苦労や、社員との確執、家族との時間を犠牲にしてきた葛藤などだった。「フランチャイズビジネスの本部支援をする中で、いろんな飲食チェーンの裏側を見せていただきました。経営者の方々は皆、自分の人生をかけて事業に取り組んでいる。その姿勢に心を打たれると同時に、彼らが抱える課題の深刻さも理解できました」特に印象に残っているのは、あるラーメン店のオーナーとの対話だった。「シフト管理に週20時間以上費やしている」と語るその経営者の疲弊した表情が、野田氏の心に刻まれた。その後、彼のキャリアはさらなる展開を見せる。現在所属するクロスビットへの入社。野田氏が飲食業界からITの世界に踏み出した理由は何だったのか。「自分自身が経営者の方々と話ししている中で、飲食を自分が運営することにも興味はあった。でも、百パーセントそこにフィットできない、私は周りでサポートする立場なんだと思った」それならば、飲食業界が抱える課題をITで解決するという方向性に挑戦してみようと考えたという。そして、彼の人生に大きな影響を与えたある出来事があった。「香港から帰ってきてから食物アレルギーになってしまったんです」と野田氏は振り返る。「それまで何でも食べられた私が、突然、特定の食材を避けなければならなくなった。外食するたびに、何が入っているか確認する不安と面倒さを初めて知りました」この経験が彼の中で大きな使命感に変わっていった。お気に入りの飲食店に入れなくなる悔しさ、メニューを見るたびに感じる制限、店員に何度も確認する心理的負担。飲食を愛する彼にとって、それは単なる不便さを超えた問題だった。「アレルギーになって初めて気づいたんです。飲食店は誰もが平等に楽しめる場所ではないということに。アレルギーがある方、食事制限がある方、様々な理由で食に制約のある方々が、他の人と同じように飲食を楽しめる環境がまだまだ整っていない」そんな中で出会ったのが、クラウドシフト管理システム「らくしふ」を提供するクロスビットだった。一見、アレルギー対応とシフト管理は無関係に思えるが、野田氏の中では明確な繋がりがあった。「飲食店がアレルギー対応など細やかなサービスを提供するには、まず業務効率化が必要なんです。シフト作成や人員配置に膨大な時間を費やしている限り、メニュー開発やアレルギー対応といった本質的な価値創造に集中できない」IT技術で飲食店の業務効率化をサポートすることは、間接的にアレルギー対応の充実にもつながる。業務負荷が軽減されれば、スタッフは顧客一人ひとりのニーズに向き合う余裕が生まれる。これが野田氏の描いた戦略だった。「らくしふは単なるシフト管理システムツールではなく、飲食店が本来の価値を発揮するための基盤づくりなんです。効率化によって生まれた時間と余裕が、アレルギー対応やサービス品質の向上につながり、最終的には多様な顧客が平等に食を楽しめる環境の実現に貢献する」彼の中では、自身のアレルギー体験と飲食店の業務効率化が明確に結びついていた。そして、それは単なる個人的な願望を超えた、業界全体を変える使命感へと昇華していったのだ。現在、野田氏はクラウドシフト管理システム「らくしふ」を提供するクロスビットで、フィールドセールスチームマネージャーとして新規契約獲得に奔走している。飲食店の肝となる人材の配置を効率化するという使命を持って、500店舗以上のシフト効率改善を支援してきた。「今はITという切り口で飲食業界に関わっていますが、これまで食の業界だけを見てきた私にとって、他の業種も知れるのはありがたい経験です」しかし、その経験は逆に彼の飲食業界への思いを強くしたという。「他を知った中で、やっぱり飲食への思いがより強くなってきました」飲食業界の魅力とは長年飲食業界を見てきた野田氏に、この業界の魅力を聞いた。「いい意味で仕組み化されていない業界であり、仕組み化されていない企業が多い。だから人間性で勝負できる企業が多いのです」彼の答えは明快だった。「毎回毎回同じではない、コピーアンドペーストではない。現場で戦っている、スピード感で戦っている方々と話していて、毎日が刺激的です」同時に、彼は飲食業界の課題も見据えている。「効率的じゃない、仕組み化できていない部分をITでサポートすれば、よりこの産業が継続的に続けられる」彼の目指す未来は明確だ。「最終的には、アレルギーの方々でもいろんな個性的な飲食店を楽しめる環境を提供していきたい」人間味あふれる業界だからこそ、テクノロジーで支える「人間味あふれる業界だからこそ、テクノロジーで支えたい」野田氏の言葉には、飲食業界への深い理解と愛情が感じられる。彼は現在の仕事をこう表現する。「現場が求めている本質的なプロダクトにしたい、日本の労働生産性を高めたい、そんな思いで日々邁進しています」顧客のほとんどが飲食店という環境で過ごしてきた野田氏だが、今はさまざまな業種のシフト管理に携わっている。それでも彼の原点は飲食業にある。「飲食は人間性で勝負できる。それがこの業界の面白さであり、魅力だと思います」クロスビットの提供する「らくしふ」は、飲食店をはじめとする様々な業種のシフト管理を効率化するサービスだ。LINEを活用できる簡単なシフト管理システムで、シフト作成業務工数の大幅削減や、複数店舗間のヘルプ機能による人材リソースの最適化を実現している。「飲食店の肝となる人財の配置を効率化していきたい」という思いを持って活動する野田氏は、中小規模企業を中心に多くの店舗のシフト効率改善を支援してきた。「テクノロジーを駆使して、働く体験の価値を最大化したい」そんな野田氏の言葉には、飲食業界の将来への期待が込められている。コロナ禍を経た飲食業界の変革コロナ禍を経て飲食業界は大きな変革を迫られた。多くの店舗が休業や閉店を余儀なくされる中、それでも生き残るために様々な工夫を凝らしてきた。テイクアウトやデリバリーの強化、感染対策の徹底など、それまでの常識を覆す変化が起きている。「コロナ禍で飲食業界は大きな打撃を受けましたが、その中で生まれた新しいアイデアや取り組みには目を見張るものがありました」と野田氏は言う。そして今、業界は再び活気を取り戻しつつある。しかし、以前と同じやり方では立ち行かない。人手不足や働き方改革、デジタル化の波は避けて通れない。「これからの飲食業界は、人間味とテクノロジーのバランスが鍵になる」と野田氏は語る。彼の考えるこれからの飲食業界像はこうだ。「飲食店の強みは人間同士の温かいつながり。その良さを残しながら、効率化できるところはテクノロジーでサポートする。そうすれば、もっと魅力的な業界になる」未来を見据えて野田氏は飲食業界の将来についてこう展望する。「もっとシステム化して効率を上げることで、本当にお客様と向き合う時間や、料理を提供する時間など、価値あるコアの部分に集中できるようになる」そして、彼自身の目標もある。「アレルギーの方々でもいろんな個性的な飲食店を楽しめる環境を提供したい。それが僕のやりたいことです」この目標は単なる理想論ではなく、彼の中で具体的なビジョンとして描かれている。まず現在取り組んでいるシフト管理の効率化によって、飲食店の運営者とスタッフに余裕を生み出す。その余裕が、アレルギー対応メニューの開発や、アレルギー情報の適切な提供といったサービス品質の向上につながる。野田氏は、将来的に、アレルギー情報のデジタル管理システムの開発も視野に入れている。飲食店のメニュー情報とアレルギー情報を連携させ、消費者が安心して飲食店を選べるプラットフォームの構築だ。「食物アレルギーがある方が、友人と気軽に外食できる。特別視されず、他のお客様と同じように食事を楽しめる。そんな当たり前の環境を作りたい」と野田氏は熱く語る。香港駐在時に自身が経験した異文化の中での食事の難しさ、そして帰国後に発症したアレルギーによる食の制限。これらの経験が、彼の使命感の源泉となっている。「私自身がアレルギーと向き合う中で感じた不便さや疎外感。これは多くのアレルギーを持つ方々が日々感じていることなんです。この課題は、ITの力で必ず解決できる」野田氏は今、クロスビットでの経験を通じて、飲食業界とITの橋渡し役となっている。飲食業界での豊富な経験と知識を活かし、業界が抱える課題の解決に取り組んでいるのだ。「いつか飲食業界に大きなイノベーションを起こしたい」彼の目には、未来の飲食業界の姿がはっきりと映っている。飲食業界で活躍するヒント最後に、野田氏は飲食業界で働くことを考えている人々へのメッセージも語ってくれた。「この業界は毎日が刺激的です。同じ日はなく、常に新しい出会いや発見があります」そして、飲食業界でのキャリアを考えている人へのアドバイスはこうだ。「飲食店で働くにしても、飲食業界を支える仕事をするにしても、お客様や食への情熱は欠かせません。でも、それだけじゃない。柔軟性とチャレンジ精神、そして人と向き合う誠実さ。そういった要素が大切になってくると思います」彼自身、飲食店のアルバイトから始まり、食品メーカー、ぐるなび、コンサルティング会社、そして現在のITカンパニーまで、常に新しい挑戦を続けてきた。その経験からこう語る。「一見違う道に見えても、自分の中に軸さえあれば、それはきっと意味のある道になります」野田氏の言葉は、飲食業界を目指す若者たちにとって、大きな励みとなるだろう。飲食業界の魅力と可能性野田氏淳が語る飲食業界の魅力は、「人間性で勝負できる」という一言に集約される。デジタル化が進む現代社会において、人と人との触れ合いや、食を通じた感動の提供という本質的な価値は、ますます重要になってくる。同時に、その魅力を最大化するために、テクノロジーによるサポートも不可欠だ。「シフト」を切り口に「働く体験」の価値の最大化を目指すクロスビットとともに、野田氏は飲食業界の未来を見据えている。「仕組み化されていないからこそ面白い。でも、効率化できる部分はテクノロジーで支援する。そうすることで、この業界はもっと輝くと信じています」彼の言葉には、飲食業界への深い愛情と希望が込められている。これから飲食業界を目指す人も、すでに業界で活躍している人も、野田氏の言葉から多くのヒントが得られるはずだ。人間味とテクノロジーのバランスを考え、常に挑戦し続ける姿勢。それが、これからの飲食業界で求められる姿勢なのかもしれない。