「食」を通じて日本の誇りを守る —コミュニティの力で変わる飲食業界の未来サッカーから飲食テックへ—予期せぬ道での輝き岡山県出身の鳥山佳峰氏は、小学校3年生からサッカーに打ち込む日々を送っていた。中学時代はクラブチームに所属し、高校は県内の私立校にサッカー特待生として入学。そのまま兵庫県の大学でもサッカー推薦で進学し、プロサッカー選手を目指していた彼の人生は、ある日、方向転換を迎える。「大学2年生の時に、自分が頑張っても活躍できる選手にはなれないということを痛感しました。また、スポーツ選手は長く現役選手として活躍できない点や将来的なことを考えて、早いタイミングでプロを目指す道は諦めました。」プロの道を諦めた鳥山氏だが、大学4年生までサッカー部の活動は続けながら、就職への準備を始めた。サラリーマン生活にあまり魅力を感じていなかった彼が目を向けたのは、当時これから伸びると感じたIT業界だった。「就職活動中にインフォマートという会社を見つけました。IT企業で成長していて、サッカーと同じように上を目指している企業風土に惹かれたんです」2016年、新卒でインフォマートに入社した鳥山氏は、最初から現在の主力サービスである飲食店向け受発注システム「BtoBプラットフォーム 受発注」の新規営業チームに配属された。大阪営業所で関西、中四国エリアを担当し、飲食業界との関わりが始まった。新人営業マンの地道な努力営業活動は決して楽ではなかった。テレアポをかけ、手紙を書き、ポストに投函するという地道な活動を重ねた。最初に契約を取った時の喜びは忘れられない。「4店舗のクレープ屋さんが初めての契約でした。契約が決まった次の日、緊張のせいか胃腸炎になるほどでした」と鳥山氏は笑いながら振り返る。しかし彼はすぐに気づいた。テレアポだけでは効率が悪い。そこで着目したのが、同じ飲食業界を支援する企業とのネットワーク作りだった。「営業は紹介が最強だと思ったんです。誰が何を伝えるかが重要で、紹介があれば経営者に直接会えるチャンスも増えます。そこで同業他社と協力し合えるコミュニティが必要だと感じました」入社2年目、まだ20代前半の若さで「外食loverの会」というコミュニティを立ち上げた。最初は5人ほどのメンバーから始まり、最終的には17社まで規模を拡大。飲食テック企業の営業担当者が集まり、情報共有し、共同で商談に臨むという革新的な取り組みだった。「お互いのサービスを学び、一緒に飲食店のアポイントに同席することで、お客様にとっても私たちにとっても効率の良い営業ができました。ライバル企業同士が協力することで、業界全体を良くしていくというマインドが生まれたのです」コロナ禍で変わった営業スタイル順調に実績を重ねていた鳥山氏だが、2020年のコロナ禍は飲食業界に大きな打撃を与えた。営業活動も一変する。「正直、直接的な営業はできなくなりました。でも、外食loverの会を通じて得た業界知識を活かし、情報提供型のコミュニケーションに切り替えました。例えば、当時急速に拡大したデリバリーサービスについて、Uber Eatsのアカウント取得方法など、飲食店が本当に知りたい情報を届けることに注力したんです」この経験から、単に自社製品を売るだけでなく、業界に価値ある情報を提供することの重要性を実感した。こうした危機対応が認められ、新たなプロジェクトへの参画につながる。アンバサダーの石塚さんと一緒に「FOODCROSS」という業界イベントの立ち上げに携わることになった鳥山氏。このイベントは、外食・中食業界のデジタル化を推進するための場として、現在も継続的に開催されている。「FOODCROSSは、私が外食loverの会で培った経験を大きく発展させたものです。単なる商談の場ではなく、業界全体のデジタル化を推進するプラットフォームになっています」食は日本が誇るコンテンツ現在、鳥山氏はインフォマートのパートナー事業部の係長として、アライアンスパートナーの開拓と関係構築を担当している。また、レストランテック協会のアンバサダーリーダーとしても活躍し、飲食業界のデジタル変革を推進している。彼が飲食業界に携わるなかで強く感じるのは、「食」が日本の大きな強みだということだ。「食は日本が世界に誇れるコンテンツの一つです。観光と食は切っても切り離せない関係にあります。しかし、人手不足などの問題で業界が縮小してしまうと、日本の良さも失われてしまう。だからこそ、テクノロジーの力で業界を支えたいんです」彼が考える飲食業界の未来像は明るい。「日本には衣食住という基本があります。服は個性や自己表現の場として人気があり、住居にも経済的なインセンティブがあります。でも、日本が誇るホスピタリティを体現している食の業界が、まだ十分に評価されていないのはもったいない。ITの活用によって、この世界は必ず変わると確信しています」コミュニティの力で業界を変える鳥山氏が一貫して大切にしているのは「コミュニティの力」だ。社内外を問わず、人と人をつなぎ、情報を共有することで業界全体を盛り上げる取り組みを続けている。「レストランテック協会のアンバサダーとして、今年は『アンバサダーになりたい』と思われるような存在になることが目標です。単に自社製品を売るだけでなく、業界全体の発展に貢献する人材として認められたいんです」飲食業界のデジタル化において課題となるのは、テクノロジーを導入する目的の理解だと鳥山氏は指摘する。「システムを導入すれば効率化されるという表面的な理解にとどまるのではなく、そこから得られるデータを活用した経営判断や戦略立案にまでつなげていくことが重要です。特に中小規模の飲食店や卸企業では、デジタルに精通した人材が不足していることも課題です」こうした課題を解決するために、鳥山氏はインフォマートの「飲食・卸企業様寄り添い宣言」を体現し、顧客に寄り添いながら業界全体の発展に貢献している。「私の理想は、飲食業界が創造性と人間性を最大限に発揮できる場所になることです。仕入れや在庫管理といった業務をデジタル化・効率化することで、おいしい料理を作ることや心地よいサービスを提供することに集中できる環境を整えたいと考えています」若者に伝えたい飲食×テックの魅力鳥山氏は最後に、飲食業界を目指す若者へのメッセージを語った。「飲食業界は今、大きな変革期を迎えています。人手不足や原材料高騰など課題は多いですが、だからこそデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルが生まれる可能性に満ちています。飲食店の現場経験がなくても、私のようにIT企業の営業として関わる道もあります」「大切なのは、飲食店と向き合い、本当の課題を理解すること。テクノロジーはあくまで手段であり、目的ではありません。食を通じた人々の幸せを第一に考えられる人が、これからの飲食業界には求められています」インタビューを終えた鳥山氏の表情は明るく、確信に満ちていた。サッカー少年だった彼が偶然に見つけた飲食テックの世界で、彼は自分の居場所を見つけ、新たな目標に向かって走り続けている。その姿は、飲食業界の未来そのものを体現しているようだった。